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☆Alice's Review☆

  タイニイアリスで上演された作品の劇評たち ―Crazy Tea Party―
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47ENGINE「新熱海殺人事件」__明成俊
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     人生にとって一歩を踏み出すということは何を意味するのでしょう。つかこうへい作「熱海殺人事件」はこの一歩の意味について語っているのではないかと思われました。
     そして今回の47ENGINEの熱海殺人事件三作連続公演の第3弾、川本淳市演出の「新熱海殺人事件」は、三作の中で最も原作に近かったであろうと想像されまました。(私は残念ながらつかこうへいの原作を観たことはありませんが。)
     劇が始まるところで流れる白鳥の湖、容疑者大山金太郎が登場するとき皆が歌う場面、木村伝兵衛部長が花束で大山を叩き込む場面、最後に大山にあげる靴・・・・・これらは熱海殺人事件を象徴するキーワードです。
     美しく不安定なメロディは舞台にある木村伝兵衛部長刑事その人であり、最初から劇の緊張感を高めます。きちんとタキシードを着たその姿は悠々と泳ぐ白鳥のように見えますが、どこか心が不安定な人にも見えます。
     木村部長刑事の捜査室に熊田刑事が赴任してきたところから話は進んでいきます。熊田刑事は富山県から、熱海で起きたアイコ殺人事件の、彼女と同郷の容疑者大山金太郎を取り調べるため、東京に赴任してきたわけです。この熊田には母の売春と、その母に子どもの時から働かされてきたという貧しさと残酷の記憶があり、愛する恋人もいるのだが、それとは別に警視庁の有力な人の娘との縁談話があって、今は出世のためこの娘と結婚するつもりでいます。
     木村部長刑事の秘書である水野は10年間、愛する木村の側で恋人でもない関係を続けてきましたが、もう待てずに他の男と結婚しようとしています。自分の愛した木村との結婚まであと一歩、その一歩が乗り越えられなかったからです。もちろん、その一歩とは木村の一言ですが…
     このように一人一人にそれぞれ、その人なりの事情があります。それが容疑者大山を取調べていくうちに観客にみえていくという形をとって、劇は進んでいきます。この三人の共通点は一歩を踏み出せなかったことだと言えるでしょう。
     結局、水野と結婚に至らなかった木村。あと一言いえばよかったのに、その一歩が踏み出せなかったのでした。その一言を待っていた水野も一歩が乗り越えられなったんでしょうね。熊田刑事も、熊田の出世のため富山で自ら薬を飲んだ彼女を捨て切れず、かと言って出世の約束された娘との結婚に踏み切ることもできず、悩み続けています。
     人生は一歩一歩を積み重ねていくことから作っていくものです。その一歩を踏み出すか否かは自分が決めるのです。ときには勇気が出ないから、ときには一歩を踏み出すことを諦めざる得ない事情から、あるいはもったいなくて出来ないからなど、何らかの理由があり、それで判断は異なってきます。熱海殺人事件は捜査官三人を通じて、愛に向かっての一歩を考えさせようとしたのではないかと思います。

    ところが、熱海殺人事件はそれだけではありませんでした。物語の中心は大山金太郎であり、作者の最も言いたいことはここにあったのは明らかです。
     大山金太郎が舞台に登場するとき、登場人物4人が歌います。曲の名前は分かりませんが、昭和時代の軽快な海の歌でした。この歌うシーンは少し重かった劇の雰囲気を転換させるに充分でした。つかこうへい作を観る度にいつも思うことですが、バージョンが違っても音楽の選びは凄く良いです。きっと、演出家もつかこうへい作ならではの雰囲気を保つために選曲に心を砕いているんでしょう。
     容疑者大山が登場してから大山の自白が続いていきます。三人の捜査官が自分の話ばかりしていて、それが我慢できず大山自ら自白していくという発想が面白かったです。取り調べは順調に進んだ、とは言えないにしても、とうとう、どのように大山がアイコを殺したかを再現するところまで辿りつきます。結婚を控え、最後の取り調べとなる水野がアイコの役をし、劇はそれまでと一変しました。

    海が見たい…
      大山金太郎は長崎の五島から東京にやってきた者であり、異郷で貧しい生活をしているもののひとり、同郷のアイコに出会います。地元を離れ、夢を持って東京に来たアイコは爐瓦鵜瓩噺討个譴詛篏佞鬚靴討い觸でした。大山は故郷の思い出をいっぱい抱いている人で、アイコとの美しい思い出もいまだに心の中に深く刻まれていました。海が見たいというアイコの一言だけで熱海に行き、久しぶりに故郷の話をします。

    五島の海は美しかった…
      この美しい海を知っているアイコを愛するのは大山にとって当然なことでしょう。東京の人は知らないし、知ろうともしないのに、アイコに再会した大山はどんなに嬉しかったでしょう。自分の好きなことに共感してくれる人、それに引かれるのは当たり前ですから。
     しかし、アイコは大山に東京の自分を話すことができませんでした。五島には戻れない、大山には行けない、ただのごけの女に過ぎないんですから。でも、それは大山には関係ないことです。大山にとってアイコは自分を応援してくれた五島の3年b組、そのアイコなんですから。
     それにもかかわらず、アイコは大山に行きませんでした。大山はアイコの気持ちを引き戻そうと話を続けます。1000円札も出します。アイコに自分のそばにいて欲しいからです。アイコは大山の真心を知って変わります。苦しい東京の生活の中で、自分を売春の女ではなく一人の女として見てくれる大山の真心がアイコを変えたのです。

     そうです。大山は三人の捜査官と違って一歩を踏み出した男でした。大山は愛に素直な人でした。
     しかし、大山が握らせようとした1000円札がアイコの心をキズつけました。唯一、自分をごけではなく女としてみてくれた大山の手から差し出された1000円札。それをみたアイコの心境はどうだったのか言うまでもないことでしょう。
     なぜ、殺さずに済まなかったか。
     大山はアイコを殺さずに済ますことはできなかったんでしょうか。殺すしかなかったんでしょうか。
     大山にとって五島はすべてです。五島の海、残っている家族、そこに住んでいる人々が大山のすべてです。だから、五島のすべては美しくなければならないのです。ごけと呼ばれてもアイコは大山にとって美しかったに違いありません。それなのに、なぜ大山はアイコを殺したのでしょうか。
     人間は自分の欲しいものを手に入れたとたんに手から離れたとき、再び手に入れようとするより、意外と諦めてしまうものです。大山もそうだったのかもしれません。自分に来てくれたアイコが離れようとしたとき、大山はもうアイコは来てくれないと思って殺してしまったのかもしれません。なぜ殺さずに済ませられなかったかと木村部長刑事は問いますが、芝居のなかにその答えはありませんでした。推測するのみです。
     事件の再現が終わり、音楽が流れ、木村部長刑事は花束で大山を叩き込みます。花束と叩くという一見合わない二つは、花びらが舞いながら舞台に散っていく瞬間、悲しみと美しさとなりました。このシーンは言うまでもなく見事な演出です。
     取り調べが終わり、4人はそれぞれの道を歩むことになります。大山は死刑場に、熊田は自分を待っている富山の恋人のもとに、そして水野は静岡の結婚式場へ・・・・水野は最後まで木村部長刑事を待っていましたが、木村は結局一歩を踏み出しませんでした。木村はそういう人間でした。
     最後に、もう一度しかし、水野の結婚話はウソだったのです。熊田の進級もウソでした。木村部長刑事の捜査室はいつもの捜査室に戻り、劇は終わります。すべてが熊田をいじめるためだったから、でしょうか?未だに私には解りません。
     全体的に俳優さんの演技は非常に良かったです。カリスマで本音の読めない木村伝兵衛部長刑事を演じた俳優さんの演技は重さがあり、舞台の中心となって劇を進行させていったように感じました。熊田役の俳優さんも発声が上手く伝達力が良かったです。木村刑事の愛を求める水野と、田舎から都会に来て苦しい人生を過ごしたアイコと、異なる役を無理なく演じた俳優さんもそれぞれの役にぴったりだったと思います。また、格好つけたり、天然ありのままの姿をみせたり、明るい面と暗い面と両方を持つ大山の感情線を最後まで引き続けた俳優さんの演技も印象に残りました。
     熊田の細かい感情表現とアイコの苦しみいっぱいの感情と、それはよく表現されていましたが、その爆発の一瞬 ―なぜ殺したか、その必然― が今一歩でした。見たかったです。
     私はアマチュアでただの観客にすぎませんが、私にとって「新熱海殺人事件」は非常に満足のいく公演でしたし、47ENGINEの次回作にも期待します。2時間半、集中できた公演でした。(2012.10.30)
    | 劇評 | 20:09 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









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